素粒子について書かれた本にしても、ネットで見つかる記事にしてもその内
容を理解できるのは、物理学をある程度勉強した人だけだろうと思います。
私はなんとか概略だけでも、もっと多くの人に伝えることができないだろうか、
と思いながらこの記事を書いています。だから今回から書いていく内容は、
厳密に言うと説明不足な点があるかもしれません。
その方がかえって一般の方には理解しやすいと思われる場合に、そうしてい
ることをあらかじめご了承ください。
最初に選んだ素粒子は「ニュートリノ」です。選んだ理由はこの本
宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)
で最初に登場する素粒子だからです。
素粒子物理学の世界では、従来の理論で説明のつかない現象があると、
「こういうものがあれば理論的につじつまが合う」という考えから仮説をたて、
その仮説に見合うものをみんなが探し始めるということがしばしばあります。
「エネルギー保存の法則」という名前には聞き覚えがあると思います。
その内容は、すべての物理現象はその前後でエネルギーの総量が増えたり
減ったりしない、ということです。
ところが、中性子の「ベータ崩壊」という現象では、エネルギーの総量が減って
しまうと観測されたんですね。
ベータ崩壊というのは、原子核の中にある中性子が電子を放出して陽子に変
わる現象のことです。
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一例として「炭素年代測定法」で測定対象とされる炭素の同位元素である
炭素14でのベータ崩壊を挙げます。炭素14は6個の陽子と8個の中性子を
持っています。この状態は安定な状態ではなくて、ある一定の割合で中性子
の1つがベータ崩壊を起こし、原子量7の窒素に変わってしまいます。
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ベータ崩壊の前の中性子が持っていたエネルギーと、崩壊の後の陽子と
飛び出した電子が持っているエネルギーを比べると、崩壊後のエネルギー
の方が小さいということです。
そこでスイスの物理学者パウリは、ベータ崩壊の際に電子だけではなく、
電荷を持たない謎の粒子がいっしょに飛び出しているはずだと考えたそう
なんです。
そうして探し始めた結果、1950年代に実験室で彼の予言した粒子
(ニュートリノ)の存在が確認されたそうです。
ニュートリノという名前は2002年に小柴昌俊さんがノーベル物理学賞を
受賞した時に聞き覚えがあると思います。宇宙から飛んできた(自然発生の)
ニュートリノを世界で初めて捕まえたという功績に対するものですね。
これも本に書かれている情報なんですが、ニュートリノは質量が極めて小さ
いにもかかわらず、宇宙に存在するニュートリノをすべて集めると、宇宙にあ
るすべての星とほぼ同じ質量になるんだそうです。この情報は初耳ですよね。